決してあなどってはいけないパスポート申請の罰則

パスポートは、日本政府が諸外国に対してあなたの国籍および身分を公的に証明するものであり、その証明力は非常に高いものです。

よって、それを所持または行使する者は名義人本人でなければなりません。

もし、正しくない記載がされたパスポートが増えてしまうと、日本の信用力を低下させてしまい、ひいては外国における日本人の経済活動などの様々な活動の円滑な実施を妨げることにつながりかねません。

このような事態が起きないよう、パスポート申請についてのルールを定めている旅券法では厳しい罰則規定を設け、国際社会における日本のパスポートの信頼と権威の維持が図られています。

5年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金または両方

次の事項に該当する者は、5年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはその両方が科されます。

  1. 申請書類に虚偽の記載やその他不正の行為によってパスポートの交付を受けた者
  2. 他人名義のパスポートを行使した者
  3. 行使の目的をもって自己名義のパスポートを他人に譲り渡し、または貸与した者
  4. 行使の目的をもって他人名義のパスポートを譲渡、貸与、譲受け、借受け、所持した者
  5. 行使の目的をもってパスポートとして偽造された文書を譲渡、貸与、譲受け、借受け、所持した者
  6. パスポートの返納を命ぜら、期限内にこれを返納しなかった者
  7. 効力を失っているパスポートを行使した者


赤文字の部分を詳しく説明していきます。

「虚偽」、「虚偽の記載」、「不正の行為」

「虚偽」とは、うそ偽りで真実でないことをいいます。

例えば、生年月日や本籍地に関して事実と異なる記載をすることや、パスポートの交付を受けることができない事項に該当するにも関わらず、これに該当しない旨の記載をすることは「虚偽の記載」になります。

また、パスポート申請の担当行政官の質問に対し虚偽の陳述をすると「不正の行為」にあたる可能性があります。

一方で、Aが別人Bを装ってパスポートの発給申請をすることは、申立人に関する事項について虚偽が含まれているにすぎず、申請書に虚偽の記載がされているわけではないため、旅券法の罰則に該当する可能性は低いと考えられます。

ただし、刑法の私文書偽造罪や行使罪が成立することになりますので、なりすましは絶対にしてはいけません。

「行使」、「行使の目的をもって」

「行使」とは、真正な文書としてその文書の効用に応じた使用をすることです。

パスポートでいうところの「行使」とは、日本からの出国、海外で滞在、帰国する場合にあたり、内外の入管や税関職員に提示して証印を受けることといえるでしょう。

また、パスポートは身分証明書としても広く使用されているため、金融機関の口座開設時や携帯電話の契約時に身分証明書として提示することもパスポートの行使に含まれます。

「行使の目的をもって」とは、所持人自身が行使する意思を有する場合の他、第三者に行使させる意図を有する場合も含まれると解釈されています。

「自己名義」、「他人名義」

「自己名義」のパスポートとは、申請人が氏名、生年月日などの身分を特定する事項について虚偽の記載やその他不正の行為を行うことなく発給を受けたパスポートのことです。

「他人名義」のパスポートとは、「自己名義」以外のパスポートになります。

つまり、Aの写真が載っていて氏名がBとなっているパスポートは、AとB双方にとって「他人名義」のパスポートになるということです。

「偽造」

「偽造」とは、権限なく新たにパスポートを作成することのほか、真正に作成された旅券の本質的部分に変更を加えて新しい文文書を作ることも含まれます。

例えば、パスポートの氏名、写真、生年月日などの身分証明事項や有効期間満了日を改ざんする行為などは偽造にあたります。

偽造パスポートの作成と行使に対する罰則はない!?

偽造パスポートの作成および行使については旅券法に罰則はありません。

かといって、偽造行為を行ってよいわけがありません。

刑法において、公文書偽造(1年以上10年以下の懲役)、偽造公文書行使(1年以上10年以下の懲役)の罪としてしっかり規定されていますのでご安心ください。

7年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または両方

営利の目的で前述の1、4、5の罪を犯した者は、罰が加重され、7年以上の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその両方が科されることになっています。

これは、犯罪組織が営利の目的でパスポートの不正取得等に反復継続的に関与する事例が認められるため、違法性がより大きく、もっと強力な抑止が必要とされるからです。

「営利の目的」

「営利の目的」とは、財産上の利益を得ることであり、第三者に財産上の利益を得させることも含まれています。

未遂も処罰の対処になる!

ここまでご紹介してきた罰則は、その罪を犯した場合に適用されるものですが、旅券法ではその「未遂」も処罰の対象とする罰則が存在します。

「未遂」

「未遂」とは、犯罪の実行行為に着手したものの、何らかの事情によりこれを成し遂げるに至らなかった場合をいいます。

例えば、申請書に虚偽の記載をしたことがパスポートの交付前に判明した場合などがこれにあたります。

30万円以下の罰金

次の事項に該当する者は、30万円以下の罰金が科されます。

  1. パスポートに記載された渡航先以外の地域に渡航した者
  2. 渡航書に帰国の経由地が指定されている場合において、経由地以外の地域に渡航した者


渡航先が限定されたり経由地が指定されるケースは極めて限定的であり、一般の方が該当することはまずありませんので、ここでは詳しい解説は省きます。

まとめ

いかがでしょうか?

意外に罰が厳しいと感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、一般的にパスポートは誰でも持つことができますが、その重要性は想像以上のものだといえます。

重要度が高いからこそより厳しい処罰が用意されているのです。

違法行為は絶対にしてはいけません。